採用から活躍・定着へ。東芝グループのチャレンジを支えるD&Iの研修の特徴とは

Toshiba_Logo_Red_RGB
株式会社東芝
 
 
人事・総務部 採用センター 
手島 心 様(写真左)
人事・総務部 人事企画第一室 人材・組織開発企画グループ
内原 優希 様(写真右)

POINT

 課題

東芝グループ全体で障がい者採用を強化していくにあたり、関わる社員が理解を深め、マインドも変えていく必要があった


 取り組み

障がい者採用の基礎知識だけでなく、面接や現場での受け入れ体制づくりなど実務でも役立つさまざまなテーマで研修を実施した


 成果

4年間にわたり継続的に研修を実施するなかで採用数が増え始めているほか、入社した方々の活躍を支えるために受け入れ側の社員の意識も変わり始めている

2024年3月、株式会社東芝は「東芝グループDEIB(ディー・イー・アイ・ビー)方針」を制定しました。重点領域の一つに「障がいのあるメンバーの活躍」を定めており、グループ全体で障がい者雇用と活躍支援に積極的に取り組んでいます。この取り組みを加速させるため、東芝グループはD&Iと協力し、障がい者雇用や活躍支援の理解を深めるためのさまざまな研修を実施しています。

今回は、株式会社東芝 人事・総務部 人事企画第一室の内原さん、採用センターの手島さんにインタビューを実施。研修を導入した背景や実施テーマ、具体的な内容、さらにはその成果について伺ってきました。

採用から活躍・定着へ。東芝グループのチャレンジを支えるD&Iの研修の特徴とは

 


「東芝グループDEIB方針」策定により、障がい者雇用と活躍支援をより一層強化することに

 

──まずは、お二人の業務内容やミッションを教えてください。

手島さん

私は人事・総務部 採用センターに在籍しています。主なミッションは、東芝グループの採用ブランディング全般。新卒・中途・障がい者の採用活動について、どういった戦略を立て、どのように露出し、採用ターゲットにどう認知してもらうかを企画・実行する役割を担っています。新卒・中途・障がい者の各採用担当とも連携しながら、より良い採用活動ができる体制づくりに取り組んでいます。

内原さん

私は人事・総務部 人事企画第一室の中にある人材・組織開発企画グループに在籍しています。人材開発ではグループ従業員の教育や研修を企画しているほか、組織開発ではエンゲージメントサーベイを実施し、その結果から従業員エンゲージメントを高めるための分析や施策立案を行っています。

それ以外では、グループ全体の多様性推進も担当しています。2024年3月に「東芝グループDEIB方針」が策定され、従業員一人ひとりが多様性を強みに変え、東芝グループで働くことにやりがいを感じ、個々の能力を発揮しながら活躍できる環境づくりをより一層推進していくこととなりました。こうした取り組みの中で、障がい者雇用や活躍推進の領域を私がメイン担当として向き合っています。

 

──内原さんのお話にあった「東芝グループDEIB方針」とは?

内原さん

「東芝グループDEIB方針」は、2024年3月に公開されました。東芝グループではそれまでも「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の取り組みを行ってきましたが、ここに「E(Equity:エクイティ、公平性)」と「B(Belonging:ビロンギング、帰属意識)」を追加して「東芝グループDEIB方針」が制定されました。

新たに追加した「E」は、従業員一人ひとりに公正な形で挑戦・活躍の機会を提供することを示しており、一人ひとりが能力を最大限に発揮し、組織に貢献することにつなげます。「B」は、一人ひとりが「組織の一員として自己を生かせる居場所がある」と感じる状態を示し、エンゲージメントの向上や生産性の向上、従業員の定着などにつなげることを狙いとしています。

この方針をもとに、東芝グループでは「多文化共生」「ジェンダーギャップ解消」「LGBT+とアライ」「障がいのあるメンバーの活躍」と4つの重点領域を定めました。その中で私は、グループ全体で障がい者雇用と活躍推進を強化していくための施策を企画・実行する役割を担っています。

以前あった「D&I方針」でも重点領域が定められていて、その一つが障がい者雇用だったんです。そのときと何が変わったかというと、「障がい者の活躍」という考え方が入ったこと。法定雇用率達成のために採用を強化することも大切ですが、そこがゴールではありません。障がいのあるメンバーが自分の能力や強みを生かして活躍できることが大切だし、そのための環境づくりも重要だろうと。こうした考えがグループ全体に展開されたことを受け、取り組みに一層力を入れることになりました。

 

──東芝グループの障がい者雇用の現状はいかがでしょうか?

手島さん

2024年のロクイチ(6月1日)報告での障がい者雇用率は2.60%。これまでは、また現状としては身体障がい者の割合が高いですが、知的障がい者の方もおり、また近年は精神障がいのあるメンバーの割合も増えています。採用活動はグループ全体で積極的に受け入れを行っており、一人ひとりに合った部署や業務にアサインするようにしています。例えばある求人に応募してきた方がいたとして、面接等で話していく中で別の部署や業務のほうが合っていると感じたら、本人にそのポジションを紹介しています。細かくすり合わせをしながら、本人が活躍できるポジションに配属できるよう納得感を重視しているのが特徴です。 

 


障がい者雇用と活躍推進のため、D&Iの協力のもとさまざまな研修を実施していくことに

 

──ここからは、株式会社D&Iに研修の企画・実施を依頼した背景を伺っていきます。法定雇用率も達成している中、なぜ新たに研修を行うことにしたのでしょうか?

内原さん

法定雇用率は達成していたものの、2024年、2026年の法定雇用率引上げを控える中で、障がい者雇用率を高める必要がありました。そのための施策を検討するにあたり、各社の人事担当者へのヒアリングを実施したのですが、やはり障がい者雇用の必要性を認識していない、あるいは障がい者とともに働くことにハードルを感じる従業員がいることが課題の一つだと感じました。雇用と活躍推進を進めていくためにも、マインドが変わらなければ行動に移せませんし、知識がなければ何をすべきかが分かりません。そこでまずは、マインドセットや知識習得のために研修をやろうとなったのです。

手島さん

これまでも障がい者雇用に関する研修は行っていました。基本的な障がい者採用に関する知識はもちろん、例えば精神障がいの方と面接する際には何を聞くべきか、どこに気をつけるべきかなど、より実践的な内容を学んでいけることも大事だろうと。そこで私たちのニーズに合った研修を提供してくれる企業を探していくことになりました。

 

──D&Iに依頼することになった決め手は何でしょうか?

内原さん

今から約4年前、障がい者雇用に関する研修内容に課題感を抱いていたとき、たまたまD&Iを紹介してもらい、研修内容について提案をしてもらったのが最初のきっかけです。魅力を感じたのは、私たちのニーズに合わせて柔軟に対応してくれるところ。加えてD&Iが障がい者の雇用や活躍・定着について豊富なノウハウを持っている点にも惹かれました。彼らだったら、私たちが求める研修を企画・設計してくれるだろうと思い、お願いをすることを決めました。

 
──D&Iとタッグを組んでからは、どのように研修テーマを決定してきたのでしょうか?
 
手島さん

東芝グループの社内状況を踏まえつつ、例えば法改正があればそれを解説する内容を盛り込むなど、世の中の動きも考慮して研修テーマを決定しています。研修に参加するのは、グループ各社の管理職や障がい者雇用の担当者、産業保健専門職の人などです。障がい者雇用に関する基本的な知識を習得するための講座もあれば、面接ロープレなど実践型の研修も行っています。研修は約4年間、毎年同じ時期に定期的に実施しているため、前年の内容も振り返りながら毎年少しずつアップデートしていっています。開催方法は、2024年度は対面とオンラインのハイブリッドで実施しました。

 

──他の会社と比べても珍しいですが、ここまでパワーをかけるのはなぜでしょう?

内原さん

先ほどお話しした通り「東芝グループDEIB方針」の中で「障がいのあるメンバーの活躍」を重点領域の一つに定めており、それだけ会社として多様性を重視し、企業価値向上に繋げたいと考えているからです。そのためには私たち人事・総務部だけが頑張ってもダメで、より多くの従業員が知識を習得すべきだと考えました。採用して終わりではなく、一人ひとりが活躍するために何が必要なのかを考えなければいけない。

そして、当然のことながら障がい者の法定雇用率を遵守したいと考えています。 こうした流れに対応していくためにも、今まで以上にパワーをかけていくべきだと思っています。

 

バラエティに富んだ研修内容により、現場の従業員からも良い反響を得られている

 

──ここからは研修内容について伺っていきます。さまざまなテーマで実施しているとのことですが、具体例をいくつか教えていただけますでしょうか?

手島さん

2024年10月には、採用活動時のポイントを共有する講座を開催しました。講座開催後の11月に「障がい者のための東芝グループ就職フェア(オンライン面談会)」というイベントも控えていたため、各採用担当者に対し、例えば書類選考の見極めポイントや、面接で何を聞くべきか、どうやって質問すべきかなどをD&Iに解説していただきました。

特に面接においては、「どこまで聞いていいのか」「どうやって聞けばいいのか」について分からないことも多いもの。そこについて具体的な質問例なども教えていただいたことで、「ここまで踏み込んでいいんだ」など参加者からもポジティブな反応が得られたと実感しています。

内原さん

講座での内容に「合理的配慮」のお話があったのですが、「配慮はするけれど遠慮はしない」という点に多くの参加者が気づきを得ていたようです。こういった知識や気付きを得た上で採用担当者が選考することで、ミスマッチのない採用、スムーズな受け入れにつながっていくと思うと、すごく良い講座だったと考えています。

 

──障がいがあるメンバーの話を聞くセミナーも開催されたそうですね。

内原さん

「障がいのある社員への理解を深めるセミナー」と題して、障がいのある東芝グループ社員の話を聞く機会を設け、こちらもD&Iにサポートいただきました。その社員は、視覚に中途障がい(生まれつきの障がいではなく、ある日突然、病気や事故で障がいを持つこと)を持った人なのですが、障がいを持ったときの気持ち、日々の業務における苦労などを赤裸々に語っていただいたんです。D&Iの方が社員の対談相手として登壇してくださったことで、当事者の本音をより引き出すことができ、参加者アンケートでも満足度が高かったのを覚えています。

「中途障がい」を知らない人が多かったのですが、それが良い悪いではなく、それを知ることに意味があると感じました。当事者が日々何を感じ、どこに困っているのかを知ることで、未来の行動を変えていくことができますから。そういった想いからもさまざまなテーマで研修を企画するようにしています。

 

──お二人が個人的に印象に残っている研修はありますか?

内原さん

私の中で印象に残っているのは業務切り出しのワークです。自分たちが日々やっている業務を切り出すにあたり、実際に業務を洗い出し、任せられそうな業務を切り出してExcelにまとめていったのですが、頭で想像しているイメージと実際にやってみるのではかなり勝手が違いました。ただ、このワークで業務切り出しのポイントを学んだことで、例えば障がいのある方向けの求人票を作成する際にも、業務内容の説明の仕方をもっと工夫できそうだと感じたりといろいろな場面に応用できると感じました。

手島さん

私は全体的な感想になりますが、さまざまな研修やセミナーを通じて障がいのある方への理解が深まることで、自身の業務にも活かせる点が多いと感じています。東芝の採用ブランディングという観点からも机上で考えるだけでなく、現場を自分の目で見て耳で聞くことで、より求職者の側に立った施策を考えられると思っています。だからこそ、障がいのある方と直に接する機会は今後も大切にしていきたいです。

 

──研修に参加したみなさんの反響や満足度はいかがでしょうか?

内原さん

参加者の満足度はかなり高いです。毎回アンケートを実施して集計していますが、8~9割の人に満足いただいています。もちろん研修内容にもよりますが、「現場ですぐに活かせる」「今後の採用活動で実践していきたい」といった声をいただくことが多いです。現在は対象者を絞っていますが、「もっと多くの社員に見てもらったほうがいいのでは」といった声もいただくので今後検討していく予定です。

手島さん

D&Iに実施いただいた障がい者雇用に関する基礎知識などの研修は録画し、オンデマンド形式で従業員に周知しているので、今後もうまく活用していきたいです。過去に研修に参加し、「障がい者雇用の理解が深まったので、なぜ必要かが分かりました」と言っていただいたこともあるので、そういった方をぜひ増やしていきたいです。

現場の変化で言えば、研修をはじめさまざまな形で情報発信を続けていることで、障がい者雇用率を意識する方も増えているので、地道に継続していく考えです。現場の採用担当者や受入部門からは「今年の内定承諾は○名でした!」「採用した方が活躍してくれています!」などの声もいただくので、日々の取り組みが少しずつ浸透していると嬉しく思っています。

 

障がいのあるメンバーと働くことが当たり前の環境をつくっていきたい

 

──今後取り組んでいきたいことについても教えてください。

内原さん

まずは、法定雇用率を達成できるよう取り組んでいきます。2026年7月には法定雇用率が2.7%に引き上げられる予定ですので、先々を見据えながら取り組んでいきます。

手島さん

法定雇用率が0.1%上がるだけでも、20名 ほどの新規採用が必要になってきます。身体のみならず、知的、精神などさまざまな障がいのある方を受け入れていくことになるでしょう。東芝グループの障がい者採用をどう知っていただくかということだけでなく、受け入れ部署が増えることで現場への情報発信など、状況を見ながらさまざまな施策を展開していきたいと考えています。

内原さん

12月3日の「国際障害者デー」に合わせ、当社では「東芝障がいフォーラム」というイベントを今年度に初めて開催しました。このイベントでは、人事・総務部のトップから障がい者雇用の重要性について改めて話すとともに、外部講師による基調講演や、東芝グループで働く障がいのある従業員とのパネルディスカッションも実施しました。障がい者雇用の必要性や、障がい者とともに働くイメージを伝えることができ、今後にもつながる良い場になったのではないかと感じています。

 

──こうした考え方を今後も浸透させていくために必要なことはなんでしょうか?

手島さん

手段はいろいろあると思いますが、トップからの発信に加え、障がい者雇用について知りたいと思った時、誰もが、いつでもその情報にアクセスできる環境を整えていくのも必要なことだと考えています。最近では内原さんがよく情報発信しているので、「障がい者雇用のことは内原さんに聞けば大丈夫」といったかたちで、より注目してもらいやすくなっていけばいいですね。

内原さん

障がい者雇用について分からないことがあったとき、「内原に聞いてみよう」と想起してもらえるよう私も頑張っていきます。D&Iの研修については、研修動画視聴に関して回数も人数にも制限がないため、この点はすごくありがたいです。障がい者雇用についての知識を身につける際のインフラになっていますので、今後もうまく活用していきたいです。

 

──最後にメッセージをお願いします。

内原さん

障がいのあるメンバーへの理解が広がっていくことで、インクルーシブな組織になっていくのが一番理想的な姿だと思っています。障がいのある方はできないことがある一方で、その方だからこそできることもあります。それを活かして組織に貢献してもらうことが、会社の成長につながっていく。そういった状況を目指していきたいですし、障がいのある方本人のみならず、一緒に働く上長や同僚もみんなが同じマインドを共有できている世界をつくれたら理想だなと感じています。

手島さん

自分も同じような考えですが、障がいのみならず、例えば小さいお子さんがいる家庭など、周囲の状況に応じて様々な配慮できる会社にしたいです。本社は川崎駅直結で通勤しやすいですし、福利厚生も充実していて安心して働ける環境は整っています。採用センターとしては、色々な情報発信をして、東芝で働いてみたい、活躍したいと思ってくれる方が増えると嬉しいです。

内原さん

職場環境から福利厚生まで、いわゆるハード面はかなり充実しています。だからこそ今後はソフト面というか、従業員のマインドもさらに向上させていきたいです。障がいのあるメンバーと働くことがもはや当たり前に感じるような状況をつくっていきますので、興味を持った方はぜひ応募いただきたいですね。

【編集後記】
障がい者雇用に積極的に取り組む企業は増えていますが、東芝グループのように障がい者雇用に関する研修やセミナーを積極的に行っている企業は多くありません。加えて、研修やセミナーの内容も毎年テーマを変えているなど、東芝グループの本気度を感じた取材となりました。2024年3月に策定・公開された「東芝グループDEIB方針」により、こうした動きは今後さらに加速していくでしょう。障がい者の採用だけでなく活躍も重視する。それによる採用成果や社内の変化についても引き続き注目していきたいと感じました。
お問い合わせ
障害をお持ちの方の雇用・教育に関するご相談、お悩みがございましたらお気軽にお問い合わせください。