「共に働く」を目指す三洋化成の働く環境整備の取り組み。
『相談窓口』導入によって見えてきたメリットや課題とは? 
三洋化成工業01-1
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 三洋化成工業株式会社
 
 
 人事本部 人事部 主任 DEI推進担当
 上野 ゆかり 様(写真左)
 人事本部 人事部 主任 DEI推進担当
 横川 聡子 様(写真右)
※所属部署は取材当時のもの    

POINT

 課題

社会的責任としての法定雇用率達成にとどまることなく、障がいの有無に関わらず誰もが安心して活躍できる会社を目指して、障がい者が全事業所、各職場で「共に働く」ことができる環境づくりを推進する中、単に雇用するだけでなく定着支援が求められるようになった。


 取り組み

入社後のギャップ解消や早期離職を防ぐための定着支援から、さらに対象を拡大し、障がいのある従業員と受け入れ部署双方がいつでも気軽に相談できる『相談窓口』を設置した。


 成果

障がい者雇用の専門的な知識や企業での支援経験等が豊富なカウンセラーによる相談窓口の存在が、障がいのある従業員だけでなく受け入れ部署にも安心感をもたらすほか、相談をきっかけとした環境改善や、潜在課題の顕在化にもつながっている。

三洋化成工業株式会社は、約3,000種類のパフォーマンス・ケミカルス(機能化学品)を製造・販売しているメーカーです。東証プライム市場に上場しており、本社がある京都以外にも全国各地に事業所を展開しています。

そんな同社は「企業を通じてよりよい社会を建設しよう」という社是を掲げ、近年はDEI推進にも積極的に取り組んでいます。その施策の一つが「障がい者雇用」であり、障がい者の雇用・定着・活躍に向けてさまざまな取り組みを行っています。そこで今回は、 同社の人事本部の上野さん、横川さんにインタビューを実施し、障がい者雇用の現状や課題、 D&Iとタッグを組んで実施している実際の取り組みなどを伺ってきました。

「共に働く」を目指す三洋化成の働く環境整備の取り組み。
『相談窓口』導入によって見えてきたメリットや課題とは?

 


「共に働く」をキーワードに、全事業所で雇用し、各職場でともに活躍することを目指している

 

──まずは、お二人のプロフィールから教えてください。

上野さん

私は2021年からDEI推進を担当しています。当初から障がい者雇用に関わっていたわけではないのですが、会社としても2021年から障がい者雇用により注力していくことになり、配属後少し経ってから障がい者雇用に携わるようになりました。

横川さん

私は2023年からDEI推進を担当しています。当初は女性活躍やLGBTQなどの担当でしたが、2025年4月から障がい者雇用も担当し、現在はD&Iにサポートしてもらいながら、障がい者の雇用拡大や定着、活躍を目指して取り組んでいます。

 

──障がい者雇用の目指す姿から教えていただけますでしょうか。

上野さん
当社グループでは、創業当初から「企業を通じてよりよい社会を建設しよう」という社是を掲げてきました。そして近年では、2030年のありたい姿を策定する中で「全従業員が誇りを持ち、働きがいを感じるグローバルでユニークな高収益企業に成長する」というビジョンを策定しました。中長期のゴールを目指すうえでのマテリアリティの一つに「多様な価値観を認め合って人財育成と職場環境を向上」を掲げ、それに基づいてDEIを推進しています。

横川さん
すべての従業員が自分らしさを大切にしながら、安心して働きやすい職場環境づくりに取り組んでいます。多様な人財が活躍して付加価値を生み出せるようにすることで、よりよい社会の実現に貢献していきたいと考えています。

障がい者雇用に関して大切にしているのは、「環境そのものを変えると、誰もが能力を発揮できるようになる」というノーマライゼーションの考え方。障がい者の方々も含めて、すべての従業員が互いに個性を認め、受け入れ合い、一体となって働き活躍できる職場環境づくりを目指してきました。
 
 

──「一体となって働ける職場環境づくり」を目指す中で、障がい者の方々の雇用状況はどのようになっているのでしょうか?

上野さん
2021年度より障がい者雇用、活躍推進の取り組みにより注力するようになり、雇用数の増加はもちろん、入社後の定着・活躍もより重視していこうとなりました。

横川さん
「共に働く」をキーワードとして大事にしていて、全事業所で雇用し、各職場において障がいの有無に関わらず共に活躍できることを目指しています。障がい者の方々が勤務している事業所を見ると、全体の約半分が本社、残り半分がその他6事業所での勤務となっています。

上野さん
各職場で共に活躍することを目指していますが、本社での雇用に偏った状況が続いています。また、障がい者の方を受け入れるために業務を切り出そうと考えると、どうしても単純作業に偏ってしまう実態があります。それが「共に働く」という状況か、と言われると難しいところです。

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法定雇用率の上昇、ベテラン社員の定年退職などから、体制の見直しを考えるように

 

──2021年から障がい者雇用に注力するようになるにあたって、どういった課題感を持っていたのでしょうか?

横川さん
法定雇用率の上昇や、長年活躍してくださったベテランの障がい者の方々が数年以内に定年退職を迎えることから、雇用率の達成が難しくなることが分かっていました。法定雇用率を達成することだけが目的ではありませんが、企業としての社会的責任を果たすことも大切だと考えています。「共に働く」ことを目指す以上、受け入れ部署とのすり合わせが必要ですから、すぐにたくさんの障がい者を雇用することはできません。このような状況の中で、障がい者の雇用はもちろん、入社後の定着や活躍にも注力していかねばならないと考えていました。

上野さん
各社が障がい者雇用に注力する中で、身体障がい者の方々の雇用難易度も上がっていました。身体障がい者の方のみならず、近年判定が増えている精神障がい者の方の雇用を進めるうえで、どんな配慮をすればいいか分からず、受け入れ部署の負担が大きくなってしまうことや受け入れた方のサポートが不十分となることが想定されました。
そこで、まずは役員層向けの研修からスタートしました。研修以外では各職場を回って障がい者雇用の必要性について丁寧に説明し、会社の方針やあるべき姿の理解を求めるところから取り組んでいきました。職場ごとに状況が違いますので、「具体的にどうしていこうか」という課題感はありました。

 

──新規雇用だけでなく、その後の定着・活躍にも課題を感じていたのですね。ちなみに、D&Iにご相談いただいたのはどのような経緯だったのでしょうか?

上野さん
きっかけは障がい者雇用を強化していくタイミングで、人材紹介サービスでの支援をいただいたところが始まりでした。その中で、D&Iが障がい者の定着支援にも実績と強みを持っていることを知り、定着についてもサポートをお願いしていくことになりました。D&Iには2022年度から研修なども支援してもらっています。2023年度からはさらに連携を強化し、入社後の定期面談に加えて、新たに受け入れる部署に特性理解研修などのサポートをしていただいています。

D&Iのサポートで助かっているのは、専門家のアドバイスをもらえるところです。障がい者の雇用や定着支援に長年関わってきたプロの意見だからこそ、受け入れ部署も、入社される方も安心できると感じています。加えて、会社に対してフィードバックをもらえるところもありがたく感じています。

横川さん
新たに働き始める障がい者の方々に対して、「会社で働く」ということをしっかり説明してもらえるのも助かっています。障がい者の方々の相談に乗るだけではなく、入社する以上はしっかり活躍し、会社に貢献することが大事だと伝えてもらえるのはD&Iの強みだと思います。私たち社員からではなかなか伝わりにくいことでも、専門家の知見として客観的に伝えてもらうことで影響力があるのではないかと感じています。

 


「ここに行けば、何でも相談できる」そんな拠り所となる相談窓口をつくりたかった

 

──ここからは「相談窓口」を開設した経緯をお伺いしていきます。

上野さん
ここまででお話したような取り組みを進めるなかで、以前から働いている障がい者の方々や受け入れ部署の方々に対しても、専門家に相談する窓口が必要ではないかという話が出てきました。また、ご家族に障がいをお持ちの方がいる従業員にとっても相談できる窓口があると助かるのではないかと。こうした背景から、従業員の誰もが気軽に相談することができる窓口を開設しようということになりました。
 
 

──窓口開設にあたってこだわったことはありますか?

横川さん
ひとつは、各事業所において対面で相談できる日程と時間帯を設定したことです。オンラインで相談することもできますが、対面の窓口設置にもこだわったのは、話すときの表情や仕草などから伝わってくる情報が多いからです。また、日程と時間帯をしっかり確保することによって、「きちんと話を聞いてもらえる場がある」という安心感を持ってもらえることも対面窓口開設の効果ではないかと考えました。

上野さん
一方で、相談窓口に行っていることを周りに知られたくない方もいると思いましたので、相談者同士が窓口のある場所で出会ったりしないようにといった配慮も考えました。相談窓口を開設して終わりではなく、窓口の存在をどうやって社内に周知していくか、また継続的に利用してもらうにはどうすればいいかは考えましたね。窓口が身近にあることをしってもらうことが、何より安心感を生み出すと思ったからです。こうやって窓口を開設していく過程では、D&Iのみなさんにもさまざまなアドバイスをいただきました。

横川さん
D&Iからのアドバイスで言えば、新規入社者は最初どうしても不安定になりやすいので、入社後しばらくの期間は対面での相談機会を設けてはいかがでしょうと提案がありました。相談相手のカウンセラーが全国の各事業所へ足を運び、実際に職場見学などもしてもらい、どんな環境で、どのように働いているのかを目で見ることで、それが面談の場でより有効なアドバイスにつながるというお話もありました。

 

──相談窓口を開設してからの効果や気づきはいかがだったでしょうか?

上野さん
同じカウンセラーに相談できることで、毎月の相談時間が心の拠り所となっていたようです。また、継続的にコミュニケーションをとっていくことにより、本人の特性や状況を深く知ることができるため、その後の対策や環境改善などにも良いサポートができていたように感じます。一度きりの相談ではなく、継続的なコミュニケーションによって定着や活躍にもつながっていくだろうと。

横川さん
相談窓口の利用者としては、障がい者本人だけでなく、一緒に働く周囲のメンバーからの申し込みもありました。そういう意味では現場から求められていたサービスだったのかなと思っています。とはいえ、定着や活躍という面では未ださまざまな課題感を持っているのが現状です。D&Iのサポートによって改善されているところもありますが、まだまだの部分もあります。

 

──相談窓口に限らず、D&Iのサポートで効果があったものはどんなものでしょうか?

上野さん
D&Iと一緒に企画・運用した「就労パスポート」は効果的でした。これは新たに入社する障がい者の方がカウンセラーと共に作成するものなのですが、自分が職場で働く上でどんなことに注意すべきとか、周りからどんな配慮を得られると助かるかを具体的に記入し、定期的に見直して更新していくものです。

横川さん
加えて、「就労パスポート」には上司とともに設定した仕事における小さな目標も記載し、その目標をクリアしたらまた次の目標を設定していくという風に、できることを、一歩一歩、着実に増やしていく目的があります。障がい者本人もできることが増えていくことで達成感ややりがいを得られますし、受け入れ部署にとっても育成方針や成長の過程を目に見える形にすることができるというわけです。本人も目標に向かって頑張るし、まわりもそこに向けてサポートをするなど、共通の目標を持つことで定着や活躍につながると感じられたケースがありましたので、この取り組みは、とても画期的なものだったと感じています。 

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さまざまな施策を通じて課題が明確になってきたからこそ、さらに改善していきたい

 
 ──ここまでお伺いしてきて三洋化成ではさまざまな取り組みを行ってきたと思いますが、これらを振り返って現時点で感じているのはどんなことでしょうか?
 

上野さん
雇用や定着・活躍の活動において改善のきっかけを掴みつつも、一方でより課題が見えてきたというか、「共に働く」というあるべき姿に向けて、いろいろな課題に直面している感覚はあります。どうやったらうまくいくのだろうと、課題は認識しつつも解決策は見つかっていないことも多いと思います。

横川さん
一方で、必ずしも全ての事業所や職場での雇用にこだわらなくてもいいのではと。大切なのは雇用した方が安心してイキイキと働き、活躍することなので、職務や職場とのマッチングを重視し、ある程度柔軟性を持って取り組んでいければと思っています。

上野さん
何が良い点で、何が課題かというのは少しずつ見えてきています。雇用から定着・活躍までカバーできる仕組みができたことで、今後は各プロセスを改善していきたいです。

 

──今後はどういったことを目指していきたいとお考えですか。

横川さん
「共に働く」を目指して各部署に配属されたものの、障がい者の方はマイノリティということもあり、受け入れメンバーとの距離を感じることもあるのではと思います。ネットワークづくりやコミュニケーションの活性化といった切り口でのサポートも検討していきたいです。

上野さん
雇用率の達成だけでなく定着・活躍を目指すと言っているものの、障がい者のキャリアアップ支援の仕組みづくりなどはまだ着手できていません。入社した方一人ひとりが多様な選択肢の中から自分がやりたいこと、進みたいキャリアを見つけられるようにしていきたいです。採用市況がかなり厳しくなり、雇用そのものが難しくなっていますので、現実的な施策を考えることも大事にしていきたいです。

 

──最後にメッセージがあればお願いいたします。

横川さん
理想のゴールは、障がい者雇用や女性活躍推進、DEI推進などの方針や施策を打ち出さなくても、誰もが多様性を認め合いながら一緒に働ける状態になっていることだと思っています。そこに至るまでまだ課題も多いですし、何をすればその状態にいけるかは手探りの部分もありますが、誰でも活躍できる会社を目指していきたいですし、そのために私たちに何ができるかはこれからも考えていきたいです。

上野さん
DEI推進の取組み全体として、一旦立ち止まって考えるタイミングなのかなと思っています。さまざまな施策を通じて見えてきたこともありますから、それらを整理して、本当にやるべき施策を見きわめていきたい。選択と集中というところでしょうか。障がい者雇用であれば法定雇用率の達成を目指していくのはもちろん、障がいの有無に関わらずみんなが一緒に働ける職場づくりとの両立に向けて、この数年間で学んだことを生かして新たな一歩を踏み出すような提案をしていきたいです。

【編集後記】
障がい者の雇用や定着・活躍に向け、各企業がさまざまな取り組みを行っていますが、何より重要だと感じるのが「担当部門の熱意」です。どんな施策であっても、実際の担当者が熱意を持って取り組んでいないとなかなかうまくいきません。今回取材をした三洋化成工業株式会社さんでも、現場社員から「DEI推進の担当のみなさんが本気でやっているのが伝わってきたので、私も一緒に協力したい」という声をもらえたことがあったそうです。改めて人や組織を動かすのは、担当者一人ひとりの心からの熱意なのだと感じました。
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