パナソニックグループに聞く!『ワクサポ相談窓口』の導入理由と実現したい未来
金子 健志 様(写真左)
内田 賀文 様(写真右)
POINT
課題
パナソニックグループ全体で約950名の障がい者を雇用しているが、当事者・受け入れ側両者において障がい者雇用に関して相談できる専門の窓口がなかった。
取り組み
障がい者の定着支援に長年携わってきたD&Iの専門カウンセラーがサポートする、新しい定着支援サービス『ワクサポ相談窓口』を企画・導入することになった。
成果
現場からの相談によって早い段階で課題を把握できるようになったほか、社員の声をより良い職場づくりに活かしていく取り組みが始まっている。
そんなケースで活用してほしいのが、『ワクサポ相談窓口』という定着支援サービスです。このサービスでは、障がい者本人や受け入れ部署からの相談に対し、有資格者のカウンセラーからアドバイスをもらうことができます。また、相談内容やアドバイス内容を集約し、企業独自の定着ノウハウを構築していきます。人事部門だけでは把握できない現場の課題を特定し、より良い職場づくりに活かしていけるのです。
今回は、この定着支援サービスができるきっかけとなったパナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社にインタビューを実施。サービスの導入理由や導入後の効果、実現したい未来などを伺ってきました。
パナソニックグループに聞く!『ワクサポ相談窓口』の導入理由と実現したい未来
──まずは、パナソニックグループ全体における障がい者雇用の取り組みから伺っていきます。これまでは、どのように障がい者雇用を進めていたのでしょうか?
パナソニックグループの障がい者雇用はかつて、全国各地の、主に製造事業場での身体障がい者の受け入れがメインでした。各事業場が現地の特別支援学校等としっかりとしたパイプをつくり、定期的に採用を行っていました。しかし、日本の産業構造が大きな変革期を迎え、国内のものづくりが長期にわたって苦境に立たされる中、当社も様々な構造改革に注力せざるを得ない期間が長く続きました。その間、採用活動全体のペースを落としてしまったことにより、各地域での学校とのパイプラインも、いつしか途絶えてしまった経緯があります。
しかし2010年代の半ばを迎えた頃から、従業員の年齢構成の歪さが課題として顕在化するようになり、将来を担う若手世代の採用強化に舵を切っていきました。そのタイミングで、障がい者の法定雇用率の引き上げが正式に決まり、このままのペースではグループ全体の雇用率が未達になってしまう状況に陥りました。
こうした状況から、全社テーマとして改めて障がい者雇用を推進していくことになりました。ただ、長年にわたり停滞期が続いてしまったことから、過去に築いた各地域での採用スキームも途絶えてしまっていました。そこで障がい者採用の体制づくりから再度取り組んでいくことになったんです。
──障がい者雇用を再度強化していく中で、どういった課題があったのでしょうか?
以前と比較すると、障がい者雇用を取り巻く状況は大きく変わっていました。かつては全国各地の工場で身体障がいの方を採用することが多かったのですが、法定雇用率の上昇により採用難易度も高まる中、精神障がいや発達障がいの方を受け入れるケースも増えていました。従来とは採用時に気をつけるポイントも変わりますし、入社後の受け入れ体制やサポート体制も見直して改善していくことが必要だと感じました。
2022年4月に持株会社・事業会社制に移行したことも大きな変化です。従来は、6社ある特例子会社を含め、全体で雇用率を満たせば最低限法令は遵守できていたのですが、新体制においては、各事業会社それぞれで法定雇用率を達成することが必要になりました。採用活動にも力を入れた結果として、グループの事業会社全体で900名以上の障がい者が勤務するという状況になっていました。
多くの新しい方を受け入れるようになる中で、障がいのある社員本人や一緒に働く方の悩み事も増えてきていたと思います。しかしその当時、公式な相談先としては、ハラスメントを扱う窓口があっただけで、障がい者雇用に関する相談やフォローに対応する窓口はありませんでした。当然そこは、障がい者雇用についての専門的な知識やノウハウが充分ではない状態でした。今後も受け入れ人数が増え、相談件数も増えていく見込みなのに、このままでは対応しきれない。こうした危機感から、障がい者雇用に関する専門の相談窓口をつくることになったのです。
──グループ全体の相談窓口として、定着支援サービス『ワクサポ相談窓口』ができた経緯についても教えていただけますでしょうか?
以前から障がい者雇用で支援してもらっていたD&Iに相談したところ、『ワクサポ』という定着支援サービスを知りました。対面で有資格者のカウンセラーに相談できるというサービスですが、この仕組みや特徴を活用し、オンラインで有資格者のカウンセラーに相談できる体制をつくれないかと考えました。
グループの体制変更により、各事業会社ごとに障がい者雇用を行うことになりました。各社の人事も障がい者雇用に詳しくない中で、受け入れや定着、戦力化の部分でさらに相談も増えるだろうと。こうした状況を踏まえ、全国どこからでも、誰でも相談できる体制をつくろうと考えたのです。D&Iの担当者の方と打ち合わせを重ねながら進めていった結果、3ヶ月ほどでサービスを立ち上げることができました。
そうやってできたのが、『ワクサポ相談窓口』です。このサービスを導入することで、まずは日々寄せられている相談に対応し、現場で起こっている課題に適切に対処できるようになります。加えて、現場の潜在的な課題を顕在化していくことも狙いとしていました。
長期的なゴールとしては、こうした相談窓口がなくても誰もがイキイキと働ける状態をつくっていきたいと話していました。現場からの悩みを聞いて終わり、課題を解決して終わりではなく、データやノウハウを蓄積し、未来の組織づくりへと活かしていく。そうすることによって、誰もが自分らしく働くことができる多様性のある組織をつくりたかったんです。
──『ワクサポ相談窓口』導入後、従業員のみなさんの反応はいかがだったでしょうか?
正直なところ、導入後しばらくは相談件数は伸びませんでした。パナソニック全体の従業員数が約6.5万人という規模のため、どうしても情報が埋もれてしまうというか、『ワクサポ相談窓口』を知ってほしい方になかなか届いていない実感がありました。
そこから「まずは知ってもらい、利用してもらう」ことが重要だと考え、認知度向上に向けてさまざまな取り組みを行っていきました。カウンセリングのデモ動画を撮影して発信する。グループ内で働く障がい者の方々のコミュニティで案内をする。各事業会社の人事にお試しで使ってもらう。そんな形で草の根運動に取り組んでいったんです。結果、少しずつ相談件数も増えていきました。規模の大きな会社では特にそうかもしれませんが、サービスや制度を導入したら終わりではなく、いかに知ってもらい、一度は利用してもらえるかが活用率を上げていくためにも重要なことだと思います。
──相談窓口の利用が増えていく中で何か見えてきたことはありますでしょうか?
当初の想定では、障がい者本人からの相談が圧倒的に多いだろうと考えていましたが、実際は約6割が障がい者本人から、残りの4割が人事や周りの社員からの相談でした。障がいのある社員のみなさんだけでなく、一緒に働く社員のみなさんにも価値を感じてもらえているんだと感じましたね。
また、D&Iから相談内容やそこへのアドバイス内容を定期的にフィードバックしてもらう中で、当事者側の立場に寄り過ぎず、企業側の立場も理解したうえで解決策を提示してもらえるのは大きなポイントだと思いました。相談窓口を自社だけで運営した場合、どうしても本音を言いにくい社員もいるでしょうし、客観的なアドバイスをすることも容易ではありません。しかし『ワクサポ相談窓口』であれば、その問題も起こりにくいと感じました。
問題の早期発見という意味でも価値を感じています。とあるケースでは、障がい者の方が周囲からの配慮の面で少しストレスを感じていたのが相談から分かったのですが、すぐに事業会社の人事に掛け合ったことで問題解決ができたこともありました。気づかず放置していたら退職リスクにもなっていたと思います。
導入してみての意外な発見としては、家族に障がいがある方からの相談や、「医師からは発達障がいだと言われたが、障がい者手帳を持っていない自分はどうすればいいか」といった相談があったことです。「誰かに相談したいけど、誰に相談すればいいか分からない」と悩んでいる方々の受け皿としても役に立っているのかなと感じました。
障がい者雇用も、採用がゴールではなく、その後の定着、戦力化が重要です。しかし、現場の社員や人事が受け入れやマネジメントのところで悩みや不安を感じてしまうと、手前の採用のところで消極的になってしまいます。こうした相談窓口ができたことで、現場の社員や人事も障がい者雇用に前向きになれたことも導入による効果ではないでしょうか?
──『ワクサポ相談窓口』を導入したことでさまざまなメリットを得られていることが分かりました。一方で、今後に向けた課題感としてはいかがでしょうか?
もっともっと気軽に相談できる窓口にしていきたいですね。何か問題が生じる前に、さらに言えば、少しでもモヤっと感じたときに気軽に相談できる場にしていきたいと思っています。導入からこれまでは本人の名前で予約するようにしていましたが、例えば匿名でも相談できるような取り組みも検討しています。「誰かに相談したい」と思ったとき、すぐに思い浮かぶような存在になっていければと考えています。
──ここからは、パナソニックグループにおける「DE&I」の推進についてもお話を伺っていきます。内田さんは2023年4月から現在の部署に異動されたそうですが、どういった経緯があったのでしょうか?
私は2014年から2021年までの約7年間、障がい者スポーツに関連する部署で働いていました。障がいのある方が一歩外に出るための新規事業をつくるのがミッションでしたが、仕事を通じて障がいのある方と日々接する中で、これまでの仕事人生で今までなかったような感情が湧きおこってきたんです。それが、会社生活において学んだことを活かし、障がいのある方々に何か恩返しができないかということでした。
そこで定年までの最後のミッションとして、DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)を推進する部署への異動を希望しました。現在は自社内のDE&Iを推進するとともに、各事業会社の担当と連携してグループ全体でのDE&I活動にも取り組んでいます。『ワクサポ相談窓口』もグループ全体に関連する活動ですから、サービスの活用状況やそこから見えてきた課題への対応を金子さんと一緒に行っています。
内田さんが関わるようになって、『ワクサポ相談窓口』の利用も一気に進んでいるんです。
私は『ワクサポ相談窓口』に関わり始めてまだ1年ちょっとですが、障がいのある方への想いは誰にも負けないと思っています。こうした想いをベースに、『ワクサポ相談窓口』を活用しながら従業員のみなさんにより良い職場環境を提供していきたいと考えているんです。
──内田さんがDE&I担当となって約1年、グループ全体の障がいある方々の活躍ぶりを見ている中で、現在はどういった課題を感じているのでしょうか?
この部署に来てから取り組んだことがいろいろあります。その一つがアクセシビリティマップ(バリアを明記したマップ)といって、例えば大阪で働く車いすユーザーの社員が東京出張となった場合、最寄りの駅から事務所までどういった経路で来るとスムーズか、事務所にはどこにバリアフリートイレがあるかなどマップにし、安心して出張に行けるような取組みを行いました。他にも音声認識アプリの職場への導入、2024年4月改正の障害者差別解消法を学ぶためのeラーニングなどを担当してきました。
こうした取り組みを通じて障がいのある方々ともやりとりして気づいたのが、自分たちが日々発信している情報がまだまだ届いていないということです。『ワクサポ相談窓口』の情報もWeb掲示板などで告知していても、意外と知られていない。しかし説明会や交流会などで紹介すると、「さっそく使ってみます」といった反応を得られることも多いんです。だからこそ今後も、まずは『ワクサポ相談窓口』を知ってもらうことを大事にしています。
──利用者が増え、より多くの方の声を聞けるようになることで分かることもあると。
仰る通りです。先ほどご紹介したアクセシビリティマップも、実はある社員の声から生まれたものです。「自分は車椅子だと出張にも不安がある。出張に行きにくいことで将来のキャリアにも影響が出るんじゃないか」ある従業員からそういった声をたまたま聞いたことで、アクセシビリティマップをつくろうという動きが生まれました。
相談窓口に自分の意見を伝えることは、上司や人事に変に伝わってしまうかもしれないと、不安を感じる方もいると思います。しかし、誰かが勇気を振り絞って発した声がきっかけとなり、制度が見直されたり新しい仕組みができることもあるでしょう。だからこそ、一人ひとりの小さな声にこそ耳を傾け、他にも同じ想いの方がいるかもしれないと想像を巡らせ、より良い組織づくりにつなげていきたい。その積み重ねによって、従業員のみなさんがイキイキと働ける職場をつくっていきたいと考えています。
──最後に、今後実現したいことを教えてください。
私自身は障がいのある方々の採用業務を担当していますが、採用面接でも『ワクサポ相談窓口』を積極的にアピールしています。求職者の方々の反応も良いと感じていますので、今後さらにこの窓口を活用していきたいと思っています。そうすることによって、これから入社されるみなさんにとって『ワクサポ相談窓口』が働く上での大きな安心材料の一つとして魅力になっていけばと考えています。
障がいのある方々にもいろいろなタイプの方がいて、自分の気持ちを積極的に伝えられない方もいらっしゃいます。こうした方々こそ、一人で悩みを抱えることなく気軽に相談できるようにしていきたいです。どんなに優れたサービスがあっても、利用してもらわなければ意味がありません。今後も草の根運動を継続しながら、『ワクサポ相談窓口』が一人でも多くの方に認知されるよう取り組んでいきたいと思っています。
【編集後記】金子さん、内田さんへの取材で感じたのが、相談窓口を設けて終わりではなく、従業員一人ひとりの声をより良い組織づくりにつなげていこうという意欲です。障がいのある方々のみならず、グループ全体でDE&Iを強く推進していくのだという姿勢を感じました。
『ワクサポ相談窓口』を立ち上げていく際にも、「究極のゴールはこの相談窓口がなくなること」を目的としていたそうです。立場や状況が異なる従業員一人ひとりの相互理解が進み、相談窓口がなくてもみなさんがイキイキと働ける組織を理想としているのです。規模の大きな組織ゆえに難しいチャレンジだと思いますが、今後もパナソニックグループの動向を見守っていきたいと感じました。