意欲的な優秀人材を採用!地方自治体との連携協定によるテレワーク雇用の活用事例

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ニチモウ株式会社
総務部 経営企画チーム 係長
山田 貴大 様

POINT

 課題
グループ会社の工場などで精神障がい者の受け入れを行っていたものの、戦力化や安全配慮の点で課題感を持っていた。

 取り組み
テレワーク型障がい者雇用サービス『エンカク』を利用し、地方自治体との連携協定によるテレワーク雇用にチャレンジ。

 成果

初めて障がい者テレワークで雇用した社員の定着と活躍の成果から、2人目のテレワーク雇用も障がい者雇用の有効な選択肢に。

D&Iでは、地方創生SDGsの取り組みとして、地方自治体との連携協定による障がい者のテレワーク雇用を推進しています。この取り組みを通じて、「移動が困難」「通勤圏内に仕事がない」といった理由から働きたくても働けない障がい者の就業を増やしていくことを狙いとしています。
 

今回は、創業から100年以上の歴史がある水産系の専門商社・ニチモウ株式会社にインタビューを実施。同社で障がい者雇用を担当している山田さんにお話を伺い、テレワーク雇用で地方人材を採用することに決めた理由、採用人材の活躍ぶり、社内に与えた影響などを語っていただきました。

意欲的な優秀人材を採用!地方自治体との連携協定によるテレワーク雇用の活用事例

 


『エンカク』との出会いを通じて、初めて障がい者のテレワーク雇用をすることに

 

──まずは、障がい者のテレワーク雇用を始めた経緯からお伺いしていきます。テレワーク雇用を始める前はどのように障がい者採用を行っていたのでしょうか?

障がい者雇用に精力的に取り組むようになったのは、今から56年ほど前です。障がい者手帳を持っていた社員の定年退職等が続き、新たに採用する必要があるということで、ハローワークを通じて地方拠点で精神障がい者を受け入れることになりました。

しかし正直なところ、採用後はあまりうまくいきませんでした。入社した方の病状が想定していたより良くなく、業務内容に制限が入ってしまったり、所属部門の社員が対応に追われたりしていたんです。「現場での安全配慮」や「戦力化」の点で大きな課題が生じていたため、最終的に離職となってしまいました。

こうした反省から、人員が少ない地方拠点ではなく、周りにサポートできる人員が多い東京の本社での採用を考えるようになりました。そこでエージェントに人材紹介を依頼したものの、首都圏では採用上のライバルとなる企業が多く、待遇面での折り合いの問題もあり、良い人材がいても採用に至らずちょっと苦戦していたのです。

 

──そこからテレワーク型障がい者雇用サービス『エンカク』を導入することになったわけですが、どういった経緯があり、何が決め手になったのでしょうか?

人材紹介経由での採用が難しかったことから、他のいろいろな手法を検討しました。例えば農園型の障がい者雇用サービスについても、いくつか農園の見学にも行き、「障がい者の雇用を生み出す」という点では魅力を感じていたんです。しかし最終的には、「自社の事業の延長線上で障がい者を採用し、戦力化したい」という理想像を捨てられず、見送ることになりました。

そうやってさまざまなサービスを調査・検討していく中で、テレワーク型障がい者雇用サービス『エンカク』に出会いました。まず魅力を感じたのが、安全配慮がしやすいこと。自宅でのテレワーク勤務になりますので、雇う側も雇われる側も安心です。またこのサービスであれば、「事業の延長線上で戦力化する」というポイントもクリアできると感じました。加えて、地方で暮らす障がい者をテレワーク雇用するということで、今まで巡り合えていなかった優秀な人材とお会いできることも魅力に感じ、導入を決めたんです

 

──『エンカク』を導入してからはいかがだったでしょうか?

まずは、採用した方に任せる業務を切り出すところからのスタートでした。本社の人事部門での受け入れは決まっていたものの、どんな業務を任せるかは決まっていませんでした。障がい者雇用の経験が少なく、どんな業務がマッチするのかイメージし辛かったことに加え、テレワークということもあり、業務をうまく切り出せるかは不安でしたね。しかし、DIの専門家の方が丁寧にヒアリングしてくださり、Excelで整理してくださったおかげで、業務の切り出しは問題なく進められました。

採用面接については、とにかくスムーズでした。最初にお会いした方の印象が非常に良かったですから。聴覚に障がいのある石川県在住の女性・Aさんだったのですが、ゆっくり話せば問題なくコミュニケーションを取れましたし、何より働くことに前向きな点が高評価でした。新しいことにもどんどん挑戦してみたいと意欲的で。他にも候補者がいたのですが、1人目のAさんで迷うことなく即決しました。

現場での受け入れもスムーズでしたね。Aさんの意欲が非常に高く、どんどん新しいことを吸収し、できることが増えていったので、遠慮なく任せていくことができました。日々のやりとりは基本的にチャットで行っていましたが、本人が積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれたこともあり、チームのメンバーみんなから可愛がってもらっていたように感じます。毎朝の出勤報告をする際も、例えば「今朝、加賀では雪が降っています」などちょっとした情報を添えてくれるんですよね。

私自身も受け入れ責任者として、週1回の面談を行うなど、コミュニケーションの時間を大事にしていました。しかし、彼女が自分からコミュニケーションを取ってくれたことで、周りのメンバーが「彼女が定着・活躍できるよう何でも教えていきたい」と思えるような関係性を築けたのが大きかったです初めてのテレワーク雇用で不安もありましたが、こんなに良い方を採用でき、こんなに活躍してくれるんだと良い意味でのギャップを感じましたね

入社したAさんのインタビュー(2022年実施)

 

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1人目に続き2人目も採用。テレワーク雇用が障がい者採用の有効な選択肢に

 

──初めてのテレワーク雇用となったAさんは入社から2年半ほどが経ちましたが、しばらく時間が経っての活躍ぶりはいかがでしょうか?

Aさんは人事部門の業務を超え、活躍の場をさらに広げてくれています。当初は事務作業を担当していましたが、本人がデザイン系の業務に興味があったため、そういった仕事も少しずつ任せていったんです。

まずは、人事部門が採用活動で使用する会社紹介のPowerPoint資料作成からスタート。スキルが上がっていくのに合わせ、営業部が商談で使用している提案資料のリニューアルも担当してもらいました。最近では、マスコットキャラクターのデザインやグループ会社のロゴ制作まで依頼されるほどになっています。制作物のクオリティが高く依頼のあった部署からの評判も良く、その流れでまた新しい仕事が舞い込んでくるという好循環が生まれています。

任せ始めたころは、彼女が今後もテレワークを続けていく中で、何か武器ができたらいいなと考えていました。チャンスがあればデザインの仕事を任せていければいいなと。しかし、彼女自身がテキストを買って勉強するなど、かなり努力をしていたんです。その結果、明らかにクオリティが上がっているのが分かりますし、今や周りのメンバーも到底真似できないほどの仕上がりになっています。そうやって努力する姿を見ることで、私を含めた全員がもっと活躍できるよう協力したいと思うようになりました

 

──初めてのテレワーク雇用ながら、すごい活躍ぶりですね。続いて、2人目のテレワーク雇用となった男性・Bさんについてお話を伺っていきます。この方はどのような経緯で採用が決まったのでしょうか?

初めてのテレワーク雇用は想像以上にうまくいき、更なる雇用余地の拡大に向けて引き続き検討していましたが、人事部門の受け入れキャパの問題から新たなテレワーク雇用は難しいだろうと考えていました。そこで近隣の特別支援学校からの通勤型での採用など、新たな採用の形を検討していたところ、DIからとある提案をいただきました。

それが、地方自治体とD&Iが共同で開催する採用イベントの案内でした。実は参加を決めた時点では、新たにテレワーク雇用の方を受け入れるかは決めていませんでした。しかしイベント終了後、当社に興味を持ってくださったBさんとお会いしたところ、非常に優秀な方だと分かって。すぐに上司に直談判し、2人目のテレワーク雇用が決まったんです。

 

──良い人材と出会えたときこそスピーディーな動きが重要ですね。そうやって採用されたBさんはどういった方だったのでしょうか?

Bさんは睡眠障がいがある男性で、毎日過ごす中で睡眠サイクルがズレていってしまうという症状でした。とはいえ面接段階では自分に合う薬が見つかっていたので問題もなくなっていましたし、時差出勤を活用すればテレワーク勤務で充分に対応できるだろうと考えたんです。

Bさんは3年ほど社会人経験があり、口頭でのやりとりがスムーズにできることも安心材料でした。周りのメンバーと同じように仕事を任せられますし、すぐに馴染めそうだと感じたこともあり、迷うことなく採用を決めました。

 

──Bさんは20241月に入社されたそうですが、現在(20246月時点)はどういった業務を担当されているのでしょうか?

現時点では、人事部門のさまざまなサポート業務を網羅的に担当してもらっています。ある法律で法改正がある場合、どこがどう変わるかを調べてレポートにまとめる業務。中途採用や新卒採用で利用する求人票の作成業務。求職者のデータベースを見てスカウトする人材を検索する業務。Web面接に同席した際の議事録作成業務。eラーニングシステムに登録されている社員情報のメンテナンス、動画の編集、配信手続き業務。このように幅広い業務を経験してもらい、何が得意なのか、どこに関心があるかを知るところから始めています。そして将来的に本人が深掘りしたいテーマが出てきたら、その領域でキャリアアップしていけるような業務の任せ方をしていきたいと考えています。

D&Iのサポートにより業務の切り出しはしましたが、それは最初のきっかけの部分。働くうちに知識やスキルが身につき、本人の希望や得意分野が出てきたら、そこに合う業務もお任せしていきたいと考えています。本人にとっても将来に向けたキャリアアップにつながりますし、会社にとっても良いことだと思いますから。

 

──希望や得意分野に合わせて業務を任せてもらえることは、本人のモチベーションアップにもつながりそうですね。仕事の幅が広がっていくことは評価などにもつながるのでしょうか?

障がい者雇用に限った話ではないですが、業務の役割や責任に応じた待遇を用意することは、当然大切であると思っています。期待以上の貢献や成果に対しては、これまでも昇給や賞与支給といった形で対応してきており、この先についても社内におけるキャリアステップを提示することで、ますますモチベーション高く働いてもらうことを期待しています。

 

障がい者のテレワーク雇用の可能性、地方自治体との連携協定の意義について

 

──2021年にAさん、2024年にBさんと障がい者のテレワーク雇用を進めてきました。2人と一緒に働くことで感じたテレワーク雇用における活躍と定着のポイントを教えてください。

これも障がい者雇用に限ったことではないかもしれませんが、同じ空間で働いていないからこそ、積極的にコミュニケーションを取ることが大切です。例えばチャットでやりとりする際も、仕事とは関係のないカジュアルな会話を楽しむなどしています。週1回は1on1でオンラインミーティングをする機会を設け、仕事で困っていることはないか、今後やりたいことはないかなどを話すようにもしています。私以外のメンバーともやりとりする機会をつくり、安心して働ける環境だと感じてもらうことを意識しています。

その他にも、社内報など会社の情報を共有できるツールを自宅に郵送するなど、社内情報に触れられるチャンスをできるだけつくるようにしています。

加えて、定期的に本社へと出社してもらい、直接顔を合わせるようにもしています。過去には、営業の提案資料のリニューアルを依頼してくれた社員にも会って話してもらいました。当社には面倒見の良い社員が多いので、「助かったよ」「次も頼むね」と良い反応をもらえますし、なかには「みんなでAさんを一流のデザイナーへ育てよう」なんて言ってくれる社員も。「自分の仕事がどこでどう役立っているのか」を感じてもらう機会を増やすことが、活躍や定着にもつながっていくと考えています。

ちなみに先日、サステナビリティ関係のイベントに出展したのですが、イベントで使用するPOPや装飾品のデザインをAさんに担当してもらったんですね。そこでイベント当日は、Aさんにも会場に来てもらい、一緒にブースに入ってもらいました。自分がデザインしたものが最終的にどうなったかを見届けられることで、本人のモチベーションアップにもつながりますから。

 

▼AさんがデザインしたPOP広告
 
               
▼ファイルのデザインも手掛け、来場した子供たちにその場でAさんが手書きイラストを添えてプレゼント
 

イベント開催時の写真(2024年7月)

 

 ──ちなみに『エンカク』には、『エンカククラウド』や『エンカクトレーナー』などさまざまなフォロー体制があります。こうした体制についてはいかがお感じでしょうか?

今回採用したAさんとBさんは、お二人とも自分からコミュニケーションが取れるタイプだったため、採用後にこうしたフォロー体制を活用することはほとんどありませんでした。しかし、『エンカク』を導入する前の段階では、障がい者のテレワーク雇用が初めてのチャレンジだったこともあり、充実したフォロー体制は大きな安心材料でした。採用活動を始める前の業務切り出しについても非常に丁寧に対応していただいてありがたかったです。

人を採用する以上、分からないことや困ったことは必ず出てきます。例えば助成金の申請方法から社員への対応方法まで、日々いろいろな問題に直面します。そんなときでも気軽に相談に乗ってもらい、親身になって対応してもらえるところも、DIの頼りになるところだと思います。

 

──障がい者雇用における今後の展開としてはどのようにお考えでしょうか。

障がい者の法定雇用率も上昇していますし、社員数も増加していく見込みですので、障がい者の定期的な採用は必要になってくるでしょう。その中で『エンカク』を活用したテレワーク雇用は、特別支援学校からの採用と並んで有効な選択肢になっています。ただ、人事部門だけでは受け入れ人数に限界がありますので、今後は営業部など他の部署でも受け入れられるような体制づくりや情報発信を進めていくつもりです。

ちなみに障がい者雇用とは別の動きになるのですが、現在、全国の各事業所で行っているさまざまな事務作業を本社に集約し、不要な業務を削減したり、デジタル化や効率化を進めたりといった取り組みを進めています。そこで本社に集約された業務の中から、テレワークで対応できるものは障がい者の方に任せていこうといった話もしているんです。会社にとっても良いタイミングで障がい者のテレワーク雇用が当たり前になってきている中で、うまく連携させていければと考えています。

 

──最後に、地方で暮らす障がい者のテレワーク雇用についてお考えをお聞かせください。

現状、障がい者雇用の求人は首都圏に集中しており、かなりの売り手市場になっています。一方で地方に目を向けると圧倒的に求人が少なく、「移動が困難」「通勤圏内に仕事がない」といった理由で働きたくても働けない障がい者の方々がたくさんいらっしゃいます。

地方で暮らす障がい者のテレワーク雇用は、そんな両者を結びつけることができ、双方にメリットがあるものです。首都圏の企業は働く意欲の高い障がい者を採用できますし、地方で暮らす障がい者の方にとっても安心して働ける職場を見つけられます。社会的にも意義のある取り組みだと思いますので、今後もより多くの企業が、障がい者のテレワーク雇用を一つの選択肢として検討してもらえたらと思っています

ニチモウは水産系の専門商社という事業柄、全国各地、なかでも水産業が盛んなエリアに営業所やグループ会社、取引先が多数存在しています。しかしその中の多くのエリアで、労働者の不足や産業の衰退といった問題が生じています。現在の水産業は、産地や加工地である地方の方々に支えられてこそ成り立っている側面がありますから、私たちとしても地場に雇用を生み出すことで地方を盛り上げていきたいと考えています。そうすることが、自社はもちろん水産業全体の持続可能性にもつながっていきますから。

【編集後記】

取材していて印象に残ったのが、障がい者を採用して終わりではなく、入社後の戦力化や定着を大事にしていること。決まった業務だけを任せるのではなく、本人の意欲や志向性に合わせて新しい仕事を任せ、それに応じた評価もしていること。また日常のやり取りはもちろん、定期的に本社オフィスに来てもらうなどコミュニケーションを大切にしていること。展示会にも参加してもらうというのは驚きました。このように戦力化や将来のキャリア形成も意識している同社なら、障がい者の活躍の場は今後も広がっていくだろうと感じました。

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