D&Iのアドバイザリーによって加速した、障がい者が店舗で活躍できる環境づくり
國分 淳志 様
POINT
課題
専門知識に乏しい状態から障がい者雇用の担当に。手探りで採用活動を進めるも、思うように成果につながらない。
取り組み
コンサルタントによる「定期アドバイザリー」により、現状の課題解決から将来の準備までを幅広くサポート。
成果
障がい者雇用率は3年間で1.8%から2.9%へ。法定雇用率を大幅にクリアしただけでなく、障がい者が店舗で活躍する体制づくりが進んでいる。
障がい者雇用を積極的に推進し、注目すべき成果をあげている企業の取り組みを発信する事例インタビュー企画。今回ご紹介するのは、『焼肉きんぐ』や『丸源ラーメン』などの飲食ブランドでおなじみの株式会社物語コーポレーションの事例です。同社では障がい者雇用の法定雇用率を大幅にクリアしているだけでなく、本社のみならず、各事業所(店舗)を中心に障がい者を受け入れ、個々に応じた業務担当の最適化に取り組んでいるのが大きな特徴となっています。
今回は、そんな同社で障がい者雇用を担当する経営理念推進・Diversity&Inclusion本部 人財応援部シニアマネジャー 國分 淳志さんにインタビューを実施。同社における障がい者雇用の取り組み、大切にしている考え方などについて伺ってきました。
D&Iのアドバイザリーによって加速した、障がい者が店舗で活躍できる環境づくり
──國分さんは、どういった経緯から障がい者雇用担当になったのでしょうか?
営業部門にいた時に、社内のダイバーシティ&インクルージョンやサステナビリティ活動を推進する部署である人財応援部に配置転換があり、障がい者の採用、定着を目的とした障がい者雇用を担当することになりました。
当時の私は「障がい者雇用って?」という状況で、専門的な知識はほとんどなかったんですね。そこでまずは、障がい者雇用を「知る」ことから始めました。本を読む、セミナーに参加する、資格を取る、詳しい人に話を聞く、関連書類を読むなどしながら、障がい者雇用の制度や仕組み、自社の雇用状況を把握していきました。
そこで分かったことが2点あります。1点目は私が着任した頃の雇用率が1.86%で、当時の法定雇用率の2.2%を下回っていたこと。結果、年間数百万円ほど障がい者雇用納付金を納めていました。2点目は法定雇用率を達成できていない状況に対して、今後どうしていくべきか明確な方針が定まっていなかったこと。法律を順守すべきという意見がある一方で、障がい者雇用を一気に進めると現場が混乱するんじゃないかという意見もあり、具体的にどう進めていこうという考えがまとまっていなかったんです。
──まずは「知る」ところから始め、会社の現状を理解したわけですね。法定雇用率が未達成という状況に対し、障がい者雇用担当者としてどう考えたのでしょうか?
私自身も以前は店舗で働いていたので、障がい者を一気に受け入れたら受け入れ側も本人もお互いが大変というのは理解できました。一方で障がい者雇用に対する理解も深めていく中で、今の状況をそのままにはできないと。
私がそう考えたのは、当社の経営理念「Smile & Sexy」が大きく影響しています。経営理念のキーワードに「個対個」というものがありますが、「各個人が自分の考え方、生き方を大切にし、それを基点に行動し、自分づくりをする」「会社という組織があろうとも、常に相手を独立した個として認識し、相対し、自分づくりを応援する」という考えを大切にしています。
理念に沿って考えたとき、誰もが豊かで幸せな「自分物語」をつくっていくという点では、障がい者も健常者も変わらないだろうと。何かしらの障がいがあっても、本人が働きたい、活躍したいと考えているならゼロリスク思考を見直し、誰もが活躍できる可能性を狭めず、よりダイバーシティ&インクルージョンを推進していく必要があると。そんな風に考えがまとまっていったこともあり、障がい者雇用を推進していこうと考えました。
──正解がないテーマだからこそ、経営理念に沿って考えを整理し、障がい者雇用の方針を決めていったのですね。具体的に、障がい者雇用はどのように進めていったのでしょうか?
まずはハローワークに足を運び、「自社で障がい者雇用を進めていきたいのですがどうすればいいですか?」と相談しました。そこで教えてもらったのが、「特別支援学校と連携して長期的に雇用していく」「ハローワークに求人票を掲載して雇用していく」「就労支援機関と連携し、支援機関に登録している就業希望者を雇用していく」という3つの方法だったので、すべての方法を同時に進めていきました。
──貴社の場合、本社だけでなく、各事業所(店舗)を中心に雇用を進めているのが大きな特徴です。この方針も、障がい者雇用を始めた当初から決まっていたのでしょうか?
決まっていませんでした。当初は「雇用を進めながらそれぞれ課題を明確にし、一つひとつ改善する」という意識が強く、どんな仕事を任せるかまでは詰めきれていなかったからです。
ただ、本社で障がい者の方向けの仕事を新たにつくるようなことは考えていませんでした。ダイバーシティ&インクルージョンの本質は、限られた場所で多様性の受容や一部の特定の人が活躍することではないと考えています。全国に飲食店を展開している当社は、本社だけでなく店舗でもダイバーシティ&インクルージョンの推進が重要だと考えたのと、店舗にはルーチンワークがあるので、「決まった時間に来て、決まった業務を担当し、決まった時間に帰る」というフローに乗せられるのではないかと考えていたからです。そんなイメージのもと、入社者一人ひとりの適性に合わせて障がい者雇用を進めていきました。
このように進められたのも、やはり、「個対個」があったからです。例えば「この方は同じ作業をずっと続けるのが得意だから洗い場はどうでしょう」「この方は人と話すのが好きで接客を希望しています」などを店長と相談しながら「店舗でどんな役割を果たしてもらいたいのか」、「どんな仕事を任せることができるのか」など話をして、入社者一人ひとりの適性や希望に合わせて仕事内容を決めていきました。特に最初は、新たに入社が決まった場合、入社日に私も受け入れ店舗に行き、本人や店長、特別支援学校の先生または支援員と話をしたり、問題なく活躍できそうかを見届けたりしていました。自分で方針を決めた以上、責任を持って進めたかったからです。
──入社日のたびに店舗へ足を運んでいたというのはすごいですね。一方で、障がい者の方々を受け入れる現場のみなさんはどういった様子だったのでしょうか?
現場にも経営理念が浸透しているからか、障がい者の方と一緒に働くことに対してネガティブな反応はほとんどありませんでした。入社者の受け入れのみならず、特別支援学校から実習受け入れの依頼が来たと相談した際も快く受け入れてくれました。障がい者の方だけでなく、例えばインターナショナル(外国籍)やセクシュアルマイノリティの当事者の方も垣根なく受け入れていく。こうした考え方が浸透していたせいか、今になってみると理想的な障がい者雇用の進め方ができたのではないかと自負しています。
──経営理念に沿って障がい者雇用を推進し、店舗での受け入れを進めていったことで、法定雇用率も大幅に達成しています(2023年3月時点:2.9%)。自社のみでも障がい者雇用を順調に進められていると感じますが、コンサルタントによる「定期アドバイザリー」を導入したのはどういった経緯からなのでしょうか?
障がい者雇用は順調に進み、2021年には法定雇用率も達成しました。しかし今後のことを考えたとき、「今までの進め方で問題ないのか?」「どういった位置づけで障がい者雇用を考えていくのか?」ということを考えながら今後の目標を新たに掲げる必要があるのではないかという意見が出ていました。
障がい者雇用の進め方に関しては、個人に仕事が紐づいているという問題がありました。私が採用面接をして、入社後の定着面談もして、他にも特別支援学校など外部の提携先とやりとりもしてと、すべてを一人で対応・管理をしている状態。採用人数も増える中で、限られたリソースの中で何を選択してそこに力を入れるべきなのかという選択と集中を考えるべきフェーズに入っていました。
また雇用率は達成していましたが、会社の売上も伸びて成長を続けていて、店舗数も増え、社員数も増えていっています。必然的に、障がい者の雇用人数も増やしていく必要があります。さらに採用して終わりではなく、安心して活躍できる環境づくりも進めていきたい。こうした背景から、将来に向けて仕組みづくりをしなければという声が上がっていたんです。
それに加えて、例えば法律的な問題が生じたときや判断に迷ったときなど、専門家にアドバイスをもらえる体制をつくったほうがいいだろうという声も上がっていました。そこで、現状の課題解決から将来の準備まで何でも相談に乗ってもらえそうな企業を探し始めました。
──その中でD&Iの「アドバイザリー」を選んでいただいたのはなぜでしょうか?
企業を選ぶ際の判断軸としては、「自社に合ったアドバイスをしてくれること」や「一緒に仕組みづくりを進めていってくれる」といった点を重視していました。大手企業を含め複数の企業を検討しましたが、採用だけ、入社後の活躍支援だけ、といったように片方のサービスしか提供していないケースが多かったんです。D&Iは採用から定着まで一連の流れをサポートしていたので、当社に合っていそうだと感じました。
D&Iを選んだ一番の理由は、当社の経営理念に共感したうえで進めようとしてくれたからです。私たちも経営理念への理解なくして進まないだろうと考えていたので、その点は大きな決め手となりました。それに加え、担当者の方が私の意見や会社の方向性を聞き入れながらも、正しい意思決定になるように遠慮せず注意・指摘をしてくれるので、個対個の関係性で一緒に伴走してくれそうだと感じたことも強く印象に残っています。
──「アドバイザリー」が始まってからはいかがだったでしょうか?
毎月1回のペースで定期的にミーティングを実施しているほか、困ったことや分からないことがあるときはいつでも相談に乗ってもらっていて、とてもありがたいと感じています。サポートに入ってもらって良かったことはいろいろありますが、ここでは2点ご紹介します。
1点目は、マニュアル作成や店長との連携などの仕組みづくりが進んだことです。マニュアル作成については、特別支援学校の実習を受け入れるときや定着の質を上げるために、何をすればいいのか?どこに注意すべきか?といった情報を冊子にまとめ、「チャレンジドサポートブック」として全社に展開しました。
また、当社では半年、1年といったスパンで店長が異動することもあり、その際に店長間でうまく引き継ぎが行われないと、活躍していた障がい者の方がストレスを感じたり、ときに退職してしまったりすることがありました。そこで、店長が変わったタイミングでフォローに入るようにするなど、人が入れ替わってもギャップを感じずに働き続けられる仕組みを整えていきました。
2点目は、自分が考え、実践してきた障がい者雇用の質が上がったことです。私は障がい者雇用担当になってから、独学で勉強し、自分なりに理解を深めてきました。そこで考えるようになったのが、「障がい者への福祉という観点も考えながらも、そこに偏りすぎたくない」「かわいそうだから手を差し伸べる、法定雇用率だけを見て採用・定着に取り組みたくない」「採用した障がい者の方が定着するのはもちろん、働いている今、だけでなく将来の自分物語を考え、安心して働くためには」ということを考えて障がい者雇用を取り組めていることです。
「目の前にいるその人をしっかり理解し、活躍できる業務を任せることができれば活躍できる」というのが私の考え。雇用して終わりではなく、「将来どのような夢や希望があって、どのような人生を歩んでいきたいのか?」、周囲の人にサポートしてもらいながらも自分が目指す、充実した人生を歩んで欲しいという想いが年々高まってきているということです。こうした考えが間違っていなかったというか、D&Iのみなさんも同じだと知れたのはとても自信になりました。
私自身、初めての障がい者雇用担当で不安な気持ちになったり、ときに想いが先走ってしまうことがありました。不安なときは背中を押してもらい、先走ったときはブレーキをかけてもらうなど、うまく手綱を握ってもらっているというか、バランス良くサポートしてもらっています。
──障がい者雇用で入社された方々の活躍ぶりについてはいかがでしょうか?
店舗ではホール・キッチンの業務がありますが、一人ひとりに合わせて働く時間、働き方を決めています。調理の仕込みをされる方、お客様に提供する商品をつくる方、料理提供などの接客をする方など業務の幅は人それぞれ。担当者と面談する機会も設け、本人の理解度や習得状況を確認したうえで相談し、新しい業務に移行することもあります。なかにはリーダー(役職者)に昇格した方もいるなど、個々が活躍できる場所づくりを進めています。
──障がい者の方々を受け入れる現場の反応としてはいかがでしょうか?
私が障がい者雇用担当になった当時、あまり理解は進んでいませんでした。より正しく言うと、障がい者の方と関わった経験が無かったり、知識を補充できる機会が無かったということです。その点を考慮し、活動を始めた当初から社内掲示板などで障がい者雇用に関する情報を発信してきたことで、少しずつ理解も進んできたように思います。それに加え、実際に店舗で働く障がい者の方々の活躍ぶりを目にしたことで、社員の意識も大きく変わってきました。最近では毎月数件ほど、全国の店長から「うちの店舗でも障がい者の方を受け入れたい」という問い合わせが寄せられるほどになりました。障がい者雇用に対するイメージはかなり変わったのではないでしょうか。
──何も知らない状態で障がい者雇用担当になった國分さんですが、今や他でも例を見ないくらい障がい者雇用を推進するまでになりました。ここまで推進できた要因についてはどのようにお考えでしょうか?
障がい者雇用担当になった当初から変わっていませんが、「その方が活躍できるのなら、障がいの有無は関係ない」と私は考えています。企業によっては障がい者雇用がまだまだ進んでいない現状があると聞きますが、それはアンコンシャスバイアスなど差別・偏見や知識不足が原因ではないかと考えます。活躍できる可能性があるということを知らないから雇用も進まないし、定着もしづらい。雇用したとしても周囲が制限してしまいますし、障がい者の方自身も自分に制限をかけてしまうのだと思います。
だから私は、専門的な知識や情報を発信することで社内啓発を進めることを第一優先としました。知らないからこそ採用と定着が進まないだけで、実際に現場で受け入れ、活躍できることを知ってもらえば、障がい者雇用はもっと進んでいくだろうと。何か特別な要因があるのではなく、とにかく知ることが重要なのです。
そんな考えから、特別支援学校の実習をできるだけ受け入れるようにしました。その先の雇用につながればベストですが、雇用につながらなくてもいいから、まずは障がい者の方々を知ってほしかったからです。実際、2023年4月から2024年3月までの1年間では、特別支援学校の職場体験実習だけで約100件の実習受け入れを行いました。
そこまで回数を重ねると、社内でも障がい者雇用の方と関わった人がすごく増え、誰もが知っている状態、一緒に働いたことがある状態になってくるんですね。もともと良いイメージを持っていた社員でも、「こんなに活躍できるんだ」と想像を上回ったケースも少なくありません。まずは知ってもらい、現場に来てもらい、一緒に働いてもらう。そうやって社内での理解を深めていくことが、障がい者雇用の推進につながった要因ではないでしょうか。
──最後に、障がい者雇用に取り組む担当者、企業にメッセージをお願いします。
自分が担当になってから、さまざまな企業の障がい者雇用担当と話をする機会がありました。そこで感じるのが、みなさん孤独で、何をどう進めていけば分からないということ。「担当者として障がい者雇用を推進したいが、社内の理解が得られずなかなか進まない」そう悩んでいる担当者も少なくありません。
そんな方々にメッセージを送るとしたら、まずは担当者自身が、雇用ありきではなく、自社の障がい者雇用の課題を分析しながら、自社にあった目指すべき姿を掲げることをおすすめします。そしてそれを共有するための知識の土台づくり、社内啓発が大切だとお伝えしたいです。「自社にとっての障がい者雇用のあるべき姿とは何なのか?」そういった軸を持つことで、何か困ったことがあってもブレずに障がい者雇用を推進できると思うのです。
もう一つ伝えるなら、法定雇用率の達成をゴールにしないこと。障がい者雇用に限らずですが、雇用して終わり、雇用率を達成したからOK、ではないと思うのです。例えば雇用した後に放置したことで、知らないところで問題が発生して退職してしまっていた。そうなると改めて採用しなければいけないだけでなく、現場がネガティブなイメージを持ってしまい、これまで以上に活躍や定着が難しくなってしまうこともあるからです。
だからこそ、障がい者雇用に対する理解を深め、どういった位置づけや方針で進めたいのかしっかり考えをまとめ、関係者に伝えていくことが大切です。その上で現場に足を運び、自分の目で見て、直接話して、何が起こるかを把握していく。雇用して終わりではなく、その先のことも考えることで、より良い障がい者雇用を推進していけるのではないでしょうか。
【編集後記】國分さんに取材をしていて感じたのが、ものすごく熱量のある方だということ。障がい者雇用担当になった当初はほとんど知識ゼロだった國分さんですが、他の誰よりも詳しくなるほどにインプットを行い、今では全社を巻き込みながら障がい者雇用を推進するまでに至っています。「障がい者の方が活躍できることを知らないだけで、そこを知ってもらいさえすれば障がい者雇用は進んでいく」インタビュー中に印象に残った國分さんの言葉ですが、障がい者雇用に限らず多様性のある職場づくりに欠かせない考え方だと感じました。