「丁寧な採用」が、活躍・定着につながる。デンソーが追求する障がい者雇用のあるべき姿とは?

株式会社デンソー
 
 
人事部 採用室 人財活躍推進課 担当課長 
西田 礼子 様(写真右)
人事部 採用室 人財活躍推進課 上級実務職
大海 留美 様(写真左)

POINT

 課題

従来は生産関係職を中心に障がい者雇用を行っていたが、事務・技術系職種(事技職)での採用も強化。 職場や業務が多岐にわたるため、スキルや特性に応じた細やかなマッチングが求められ、新たな採用アプローチの構築が必要となった。


 取り組み

参加生徒のキャリア形成や企業理解に役立ち、実務体験を通じたマッチングを重視したインターンシップをD&I協働のもと独自に企画・実施。


 成果

インターンシップ参加者からの高い満足度を獲得できているほか、社内でも採用のミスマッチ防止や継続的な取り組みへの効果が実感できており、今後の採用推進につながるインターンシップの枠組みが整いつつある。

製造業界における障がい者雇用は、これまで生産の部門で受け入れることが多く見受けられましたが、他の部門で受け入れるケースも増えてきています。現在約700名の障がい者が活躍しているデンソーでも、障がい者がさまざまな職場で活躍しています。

誰もが安心して挑戦できるよう、一人ひとりの情熱と不安に向き合うことを大切にしているのがデンソーの特徴。「安心して応募できる会社情報の開示」「安心して入社できる環境整備」という2つの“安心”を大切にしつつ、最近ではインターンシップの導入など新たな取り組みも積極的に行っています。

今回は、そんなデンソーの人事部で障がい者雇用を担当する西田さんと大海さんにインタビューを実施。同社の障がい者雇用の現状や課題、インターンシップなどの取り組み、今後の展望などを伺ってきました。

「丁寧な採用」が、活躍・定着につながる。デンソーが追求する障がい者雇用のあるべき姿とは?

 


障がいに関係なく「人の幸せ・成長を実現する」ために、「丁寧な採用」を大切にしてきた

 

──まずは、お二人のプロフィールから教えてください。

大海さん

私は障がいのある方々の採用から定着まで、障がい者雇用に関わるすべてを担当しています。主に事務職や技術職を採用する「事技職」領域を担当しており、聾学校高等部を卒業後、さらに2年間、専門的な知識やスキルを学ぶ「専攻科」の生徒を対象とした採用活動も行っています。

西田さん

私が採用室に加入したのは2024年9月で、部門では比較的新しいメンバーです。デンソーに新卒入社し、約10年にわたり生産管理を経験。その後、人事部で女性活躍推進や人員計画などを担当し、産休・育休を経て復帰後は障がい者雇用を担当しています。大海と同様、障がい者手帳を持つ方の採用や定着支援を行っています。

 

──続いて、デンソーの障がい者雇用の現状について教えてください。

西田さん

デンソーには現在、約700名の障がい者が活躍しています。もともと生産関係職を中心に全国の聾学校を卒業した高卒者を受け入れてきました。

まずは聾学校の先生向けに会社見学会を実施し、デンソーの仕事内容や会社風土をよく知ってもらい、生徒を推薦したいかを見きわめてもらう。その後、希望する生徒には現場で2週間の実習を経験していただいた上で採用選考に進んでもらう。このように入社がゴールではなく、その後の活躍・定着を見据えた採用活動を長きにわたり続けてきました。

大海さん

会社とご本人とのマッチングを重視しているのがデンソーの特徴です。「丁寧な採用」を通じて入社していただくことを大事にしています。

入社された方にはできるだけ長く勤めてほしい、というのが私たちの考え。採用の判断をする際には「デンソーで働くことが本人にとって幸せか?」「成長し続けられるか?」という点を常に考えていますし、この言葉は部署内でもよく飛び交っています。また、入社した方が自分らしく 活躍できることも会社にとっても重要ですから、配属先でのキャリア面談や定期的な人事面談を実施するなどフォロー体制も充実させています。

 

──採用して終わりではなく、その後の活躍・定着にも注力されているんですね。

西田さん

例えば聴覚障がいがある方には音声文字化ソフトや筆談用の電子メモパッドを提供したり、要望に応じて手話通訳者や要約筆記者を手配したりしています。肢体障がいがある方には、職場はもちろん、社員寮など生活環境のバリアフリー化も進め、安心して長く働ける環境づくりに取り組んでいます。

大海さん

誰もが安心してチャレンジできるよう、一人ひとりの情熱と不安にしっかり向き合いながら、安心して会社生活をスタートできる体制づくりを進めています。

その結果、直近5年の障がいのある方々の定着率は89%と非常に高い水準を維持できています。実際にデンソーで働いている障がいがある方々からも、「人が優しい」「自分も頑張ろうと思える職場」といった声をいただくことが多いです。

 


市況の変化もあって採用手法を見直し、インターンシップを導入することに

 

──障がい者雇用においてかなり「丁寧な採用」を行い、入社後の活躍・定着も大切にしていると感じました。ここからは、障がい者雇用の現状や課題を伺っていきます。

西田さん

若い方々の職業観が変わっている中で、ものづくりに関わる仕事への興味関心も変わってきており、生産関係職メインだった従来の活躍の場だけでは多くの方にデンソーを選んでもらい続けることが難しくなってきましたまた、IT技術の進化により、コミュニケーションをサポートする手段も多様化したこともあり、 事技職でも障がい者雇用を実施することになりました。

大海さん

単に採用するためだけではなく、聾学校を卒業して社会に出ようとする若い方々が、長期的にキャリアを実現する上で事務職や技術職で働くことを希望しているのなら、私たちとしても積極的に受け入れていくべきだと考えたのです。

 

──生産関係職の採用では2週間の実習を行っていたところ、事技職の採用でインターンシップを実施することに決めたのはどういった理由なのでしょうか?

西田さん

基本的な理念として、生産関係職と同じく「丁寧な採用」をすることは一貫して続けたいと考えていました。そこで生産関係職における2週間の実習のような「丁寧さ」は何だろうと議論した結果、事技職ではインターンシップという手段に至ったんです。

大海さん

事技職の場合、本人のスキルを活かせる部署はどこなのかを考えて配属先を決めなければなりません。そこで求職者の方々の得意・不得意を把握しながら、本人も自分に合う職場かを判断できる方法を考えたところ、インターンシップが良いのではないかという結論になりました

 

──事技職でも丁寧な採用を続けていくためにインターンシップを実施することにしたと。

大海さん

インターンシップは2023年から実際の職場での体験を取り入れ本格的にスタートしたのですが、1年目は自分たちだけで企画・運営をしました。そこで感じたのが、自分たちの力だけでは限界があるということ。人員が限られていたこともありますが一番の反省点は広い視野で考えられるインターンシップになっていなかったことです。デンソーに入社する前提の内容に偏ってしまい、本来目指すべき形とは異なると感じました。

インターンシップへ参加してもらうからには、そこで得た学びや気づきが今後のキャリアにつながるものであってほしい。加えて私自身も障がい者雇用の知識や経験がまだ足りないと感じていたこともあり、専門家の力を借りてプログラムをつくろうという話になっていったんです。

 

採用増のためだけでなく、将来の糧となるようなインターンシップにこだわった

 

──インターンシップをより良いものにするために専門家の力を借りたとのことですが、D&Iをパートナーに選んだ決め手は何だったのでしょうか?

大海さん
私個人としては、一番の決め手は熱意です。D&Iと商談をして、私たちがやりたいことや実現したいことをお伝えしたところ、「ぜひやりたいです!」「こんなやり方はどうでしょう?」などすごく前向きに提案をいただいたんですね。提案内容に納得感もありましたし、何よりD&Iとなら期待以上のものができると感じ、お願いすることを決めました
 
西田さん

通常、外部に依頼する際は、依頼者側が目的を明確にした上でお願いすると思いますが、当時私は異動してきたばかりで状況を把握しきれていませんでした。そんな中、「目的から一緒につくっていきましょう」と提案してくれたのがすごく記憶に残っています。私たちから多少無茶なお願いをしたとしても、D&Iなら何とかしてくれるんじゃないか。そんな期待感があったことは大きかったです。

また、将来的に障がい者がどうしたら真に活躍できるのかを考える際のパートナーとしても、D&Iは障がい者雇用の領域で豊富な実績とノウハウを有していたことから私たちに一番フィットするんじゃないかと考えたんです。

 

──D&Iへの期待感が大きかったと。

西田さん
そうですね。例えば健常者向けの研修で豊富な実績のある会社に依頼すれば、それなりのインターンシップはできていたでしょう。でも、健常者と障がい者では違いがありますから、そこは妥協したくなかった。D&Iは障がいのある方々との関わりは深いですから、何が「遠慮」で何が「配慮」かといったような、どこまで踏み込んでいいのかという距離感を理解している点は魅力でしたね。
 
大海さん

障がいがある方々も、入社したら周りが健常者ばかりの環境で働くことになります。それを分からずにインターンシップを企画してしまうと、どこかで障がいのある方々に遠慮した内容になっていたと思うんです。しかしD&Iは、「ここは自分でやるべき」といった自立を促すようなコミュニケーションができるので、提案にも大いに期待をしていました


 

──インターンシップの企画過程で印象に残っていることはありますか?

西田さん

D&Iとインターンシップを企画していく過程では、「このインターンシップは何のためにやるのか?」と目的のところから話し合いました。そこで辿り着いたのが、この取り組みは自社の採用活動ではあるものの、インターンシップ自体が聾学校の生徒たちの成長の糧になるものになってほしいという結論。この点はD&Iのみなさんにも共感いただけたことがすごく印象に残っています。

企画過程で大事にしたことは二点あります。一点目は、参加した生徒たちがデンソーに入社しなかったとしても、インターンシップ自体が彼ら彼女らにとって財産になるものにすること。二点目が、自身の障がい特性の理解を深めてほしいということです。
プログラム内でも、自己紹介シートで自身に必要な合理的配慮について言語化してもらうことで、周囲からどんな配慮があれば最大限能力を発揮できるのかを自分で考える機会をつくりました。それが、これから社会に出て働いていく為のパスポートとして役立つんじゃないかと考えたんです。さらに、最終日の成果発表では、自身のキャリアビジョンを考え、先輩社員の前で発表する場も設けました。このように、ただ採用につなげる為だけではなく、生徒の成長を願い、生徒たちの人生に役立つことをやっていくことにこだわりました

大海さん

企画するにあたって他社事例なども調べたのですが、どうしても生徒や学生に迎合するような雰囲気を感じていたんですね。しかし私たちは、インターンシップを我々の採用手段にするのではなく、会社を、社会を、何より自分自身を深く理解する場にしてほしかった。その点はD&Iとも議論し、最後までこだわり抜けたと感じています。

▼働くことへの意識付けや企業理解を深めるための座学研修を実施
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▼聴覚障がいのある生徒が、電子メモパッドを使って社員へ質問している様子
 
 

──インターンシップ実施後の反応はいかがだったでしょうか?

西田さん

聾学校の先生たちの評価は大変良く、「ここまでやってくれる企業さんはいません!」と口を揃えて喜んでくださったので、今後も生徒の参加を後押ししてくれるだろうと感じています。また、社内でインターンシップに協力してくれた受け入れ部署からも高い評価をもらえています。D&Iによる事前研修をしたり、先輩社員インタビューに協力してもらったりと、障がいのある方々と働くことへの理解を徐々に進めていったのですが、社員からは「研修があって安心できた」「配慮すべきことが分かって一緒に働くイメージを持てた」といった声をもらえるなど、全体的にポジティブな反応が多かったです

大海さん

唯一ネガティブな反応があったのは生徒たちです。インターンシップと聞いてお仕事体験的なものを想像していたのかもしれませんが、デンソーのインターンシップはここまで自己内省しなければいけないのかと驚いたのでしょう。自分の嫌な部分と向き合う時間もあり、「働くこと」「自身の障がいと向き合うこと」に厳しさを感じたのだと思いますが、それだけ意味のある時間になったのではないでしょうか。

 

──お二人自身の感想としてはいかがでしょうか。

大海さん

私としては良いインターンシップができたと思います。D&Iのみなさんも、私たちの意向にも沿いつつ、生徒ともしっかり向き合ってくださって、すごくありがたかったです。もちろん、プログラム自体は年々ブラッシュアップしていきたいと考えています。実施したからこそ見えてきた課題もあるので、D&Iと一緒にやって本当に良かったです。

西田さん

私自身も全く同じ感想です。インターンシップも1年で完成するとは思っていなくて、D&Iとは毎年、毎年よりいいものをつくりあげましょうと会話していますので、ホップ・ステップ・ジャンプでさらに進化させていきたいです。

 

新たに入社する方には、障がいに関係なく、情熱をもって自己新記録に挑んでほしい

 

──インターンシップのみならず、障がい者雇用について今後の展開を教えてください。

大海さん

事技職の障がい者雇用はまだ始まったばかりで、入社者も多くありません。入社後はもちろん私たちが相談相手になりますが、同じ目線で相談し合ったり、交流したりする仲間が多くなれば会社生活もより充実したものになると思うんですね。そのためにも、採用実績を増やし、会社風土や相互理解を深めていきたいです。

西田さん

デンソーの障がい者雇用は、丁寧かつ厳しい採用基準で行っています。そして、障がいの有無に関わらず社員は同じ職場・人事制度の下で活躍しています。だからこそ新たに仲間になる方には、自信を持って活躍してほしい。情熱をもって自己新記録に挑んでほしいです。

 

──障がいがある方を社内の各部署で受け入れるために研修などを行っている企業も多いですが、今回インターンシップを実施してみて良かったことはどういったところにありますか?

大海さん

インターンシップの実施期間は5日間で、企業と障がいのある方々が約1週間を共に過ごすことになります。これだけの期間を過ごすと、一人ひとりの個性や素の部分がやはり見えてくるものです。そうすると入社後のミスマッチも生じにくいですよね。一人ひとりの会社生活約40年の幸せのために投資する1週間だと考えれば、ある意味で惜しんではいけない期間ではないかと感じています。

西田さん

多くの企業では、障がい者を人事総務など採用担当者がいる部門で受け入れているかと思いますが、デンソーでは今回は受け入れ部門の範囲を広げたことで、生徒のキャリアの可能性も広がりましたし、受け入れた現場も「やってみたらできるね」と理解が広がったんです。実際にやってみるまでは不安もありましたが、チャレンジしたことで今後の可能性を広げられたことは大きな収穫だったと思います。

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──最後にメッセージがあればお願いいたします。

大海さん

障がいがある方に限った話ではありませんが、ずっと挑戦し続けてほしいです。デンソー社内でも「自己新記録を出そう」と社員は日々挑戦をしていますが、やる気次第で成果も大きく変わってきますので、受け身にならずぜひ意欲的に取り組んでほしいと思っています。

西田さん

挑戦し続ける意欲と気概があれば、一人ひとりが活躍できるよう、障がい特性に応じたポストやミッションは私たちが一緒に見つけます。デンソーはバリアフリー化などハード面の整備や各種サポートに注力している一方、障がいに関係なく社員に求める成果にも妥協をしません。全社員が同じ人事制度の下で、誰もが平等にチャレンジできる環境ですので、魅力を感じていただけたならぜひデンソーへの応募を検討してほしいです。

【編集後記】
取材で印象に残ったのが、非常にパワーをかけて採用活動を行っているということです。生産関係職では2週間の実習を行い、事技職でも1週間のインターンシップを行う。採用する「人の幸せと成長」を願って、一人ひとりとじっくりと向き合う。同社の障がい者雇用は単に法定雇用率を達成するためではなく、本人が活躍・定着し、それが会社の成長にもつながっていくのかをとことん重視しているのだと感じました。
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